狩猟とは(第六話)

手負いの猪を追い詰めて

  無線機が拾い出した 犬につけた発信機のサインが 此方へと向け近づきつつあるのを 先程から
  感じてはいた 待ち場への配置は完璧のはづだ! 猪がヒョッコリと顔を出すであろう 尾根の先で
  ポッカリと開いた笹薮を見つめる。
  前回この狩り山の猟において 中待ちを
  任せたK氏前へと姿を現し バックショット
  二連射で崩れ落ちる!
  ホッとしたのもつかの間で 突然ガバッと
  立ち上がった猪は あっという間に傍らの
  藪へと その姿を消してしまった。
  呆然と立ち尽くすK氏の無念さに慰めの
  言葉すら無かった。


  今回の猟にても 同じルートでの 追跡
  追い込みを勢子へと求め K氏には悔い
  の残る中待ちを任せる事と決める。
  しかしあの猪が狩り山内へと戻っている
  とすれば! あの時の逃走ルートを避け
  奥山へと向かい出す可能性も 捨てきれ
  無い・・・。
  奥山へ向いた深く切れ込む谷沿いへと 新たに三名の射手をまわす事にした これで奥へと抜ける
  コースは塞ぐ事ができる。

  放犬の一報より幾らかの時の経過に 静かにシーバーのマイクに手を回し 小声で勢子長へ現状を
  聞く やはり一度K氏の立つ中待ちへと向かった物は 手前にて踵を返し奥山方面へとその逃走する
  コースを変え始めたようだ! ・・・・・・ いよ々物に付く犬の発信音が大きく鳴り出し もうすぐ其処へ
  近づいて居る事が判る。
  私の立つ 枝谷の出会い左手の頭上から 犬の鳴き声が響いたような気がした すかさずシーバー
  越しに勢子の叫び声が届く 鳴いてる  鳴いてる・・・!!やはり先程の声は犬の絡み鳴きだったか
  待ちを切ると 目前に延びる谷上部へと向け走り 上手に位置するS氏へ下るように告げた 上りの
  私より下りのS氏が早く着けると考へたからだった。
  砂地の川原を奥に向けて
  急ぐ 大きく右へとまわる
  処で 落差10m程の滝へ
  と出会う その上部からは
  微かに犬の絡み鳴きの声

  躊躇する事無く 左岸の
  リスへ両手を掛け登り出す
  気が焦り中々上へと進ま
  ない  何度かずり落ちて
  中段の岩棚へ架る流木へ
  足を掛けると 一気に上部
  へと身を乗り出す。

    いた・・!

  落ち込みの肩に 二頭の
  白い紀州が目に入る。
  上手から向かうS氏はまだ
  現場へとは付いて居ないようだ 見つけた 静かに! マイクに向け囁く  このまま下手から寄り
  付くには猪の反撃も予想される 気配を殺し忍び寄ると 目線の高さに全容が現れて来出す・・・
  ウン!中々の猪だ 20貫は有るだろう ヤツは落ち込みを背にその中心へスッポリと収まり 二頭
  の紀州と対峙している  猟師を見た犬は勇気づいたのか!一気に噛みこみに入った・・・犬を撃ち
  そうで銃を使う事が出来ない  腰のナイフに手を回し抜き 猪の左側からそっと寄りだす その時
  目と目が合った! 突然二頭を振り払い 私に向け捲りに来る ・・・・・・・・・・ 
  身をひねり右手の一段高い岩へと飛び乗り 間一髪猪の牙をかわす事が出来た。
  背に負う銃を 足元の猪に向けるより早く 振り払われた二頭が 再度噛み込みに入ると 
  ・・ジリジリ・・と 先程の落ち込みへと後退しだす猪  目を離すことの出来ない緊張の中 
  足元のナイフを手探りで拾い上げ収めながら    決断する。
    
    撃つしかないか? 

  上手から降って来たS氏の姿を岩陰の向こうに捉えた 手で動きを制すると次のチャンスを窺う・・・
  猪による激しい抵抗に 二頭が右岸の砂地へと跳んだ僅かのタイミングに放たれた ”308win
  180グレーン ソフトポイント弾” は 的確に的を射抜き猪は
   
    ・・ ド ン! ・・
       と 落ち込みの水中に沈んだ。

                                                     OOZEKI